師匠シリーズ14話 水の音


504 :ウニ:03/05/13 02:27
大学1年の夏の始めごろ、当時俺の部屋にはクーラーはおろか扇風機もなくて、毎日が地獄だった。
そんな熱帯夜にある日、電話が掛かって来た。
夜中の一時くらいで、誰だこんな時間に!と切れ気味で電話に出た。
すると電話口からは、ゴボゴボゴボ・・・という水のような音がする。
水の中で無理やりしゃべっているような感じだ。
混線かなにかで声が変になっているのかと思ったが、喋っているにしては間が開きすぎているような気がする。
活字にしにくいがあえて書くなら、
ゴボゴボ・・・ゴボ・・・シュー・・・・ゴボ・・・・シュー・・・シュー・・・ゴボ・・・・ゴボリ・・・
いつもならゾーっするところだが、その時は暑さでイライラしていて頭から湯気が出ていたので、
「うるせーな。誰じゃいコラ」と言ってしまった。
それでも電話は続き、ゴボゴボと気泡のような音が定期的に聞こえた。
俺も意地になって「だれだだれだだれだだれだ」と繰り返していたが、
10分ぐらい経っても一向に切れる気配がないので、いいかげん馬鹿らしくなってこっちからぶち切った。

505 :続き:03/05/13 02:28
それから3ヶ月くらい経って、そんなことをすっかり忘れていたころに、留守電にあのゴボゴボゴボという音が入っていた。
録音時間いっぱいにゴボ・・・ゴボ・・・・シュー・・・・ゴボ・・・・
気味が悪かったので消そうかと思ったが、なんとなく友人たちの意見を聞きたくて残していた。

それで3日くらいして、サークルの先輩が遊びに来ると言うので、そのゴボゴボ以外の留守録を全部消して待っていた。
先輩は入ってくるなり、「スマン、このコーヒー飲んで」。
自販機の缶コーヒーを買ってくるつもりが、なぜか『あったか~い』の方を間違えて買ってしまったらしい。
まだ九月で残暑もきついころだ。
しかし例の留守電を聞かせると、先輩はホットコーヒーを握り締めて、フーフー言いながら飲みはじめた。
先輩は異様に霊感が強く、俺が師匠と仰ぐ人なのだが、その人がガタガタ震えている。
「もう一回まわしましょうか?」と俺が電話に近づこうとすると、「やめろ!」とすごまれた。
「これ、水の音に聞こえるのか?」
青い顔をしてそう聞かれた。
「え?何か聞こえるんですか?」
「生霊だ。まとも聞いてると寿命縮むよ」

506 :ラスト:03/05/13 02:28
「今も来てる。首が」
俺には心当たりがあった。
当時、俺はある女性からストーキングまがいのことをされていて、
相手にしないでいるとよく『睡眠薬を飲んで死ぬ』みたいなこを言われていた。
「顔が見えるんですか?女じゃないですか?」
「そう。でも顔だけじゃない、首も。窓から首が伸びてる」
俺はぞっとした。
生霊は寝ている間、本人も知らない内に首がのびて、愛憎募る相手の元へやってくると聞いたことがあった。
「な、なんとかしてください」
俺が泣きつくと、先輩は逃げ出しそうな引き腰でそわそわしながら、
「とにかく、あの電話は掛かってきても、もう絶対に聞くな。本人が起きてる時にちゃんと話しあうしかない」
そこまで言って、天井あたりを見あげ目を見張った。
「しかもただの眠りじゃない。これは・・・へたしたらこのまま死ぬぞ。見ろよ、首がちぎれそうだ」
俺には見えない。
引きとめたが先輩は帰ってしまったので、俺は泣く泣くストーキング女の家に向った。

以降のことはオカルトから逸脱するし、話したくないので割愛するが、
結局俺は、それから丸二年ほどその女につきまとわれた。
正直ゴボゴボ電話より、睡眠薬自殺未遂の実況中継された時の電話ほうが怖かった。